A1「剣道指導の心構え」
- (竹刀の本意)剣道の正しい伝承と発展のために、剣の理法に基づく竹刀の扱い方の指導に努める
- 剣道は、竹刀による「心気力一致」を目指し、自己を創造していく道である。「竹刀という
- 剣」は、相手に向ける剣であると同時に自分に向けられた剣でもある。この修錬を通じて竹
- 刀と心身の一体化を図ることを指導の要点とする。
- (礼法)相手の人格を尊重し、心豊かな人間の育成のために礼法を重んずる指導に努める
- 剣道は勝負の場においても「礼節を尊ぶ」ことを重視する。お互いを敬う心と形(かたち)
- の礼法指導によって、節度ある生活態度を身につけ、「交剣知愛」の輪を広げていくことを
- 指導の要点とする。
- (生涯剣道)ともに剣道を学び、安全・健康に留意しつつ、生涯にわたる人間形成の道を見出す指
- 導に努める
- 剣道は、世代を超えて学び合う道である。「技」を通じて「道」を求め、社会の活力を高め
- ながら、豊かな生命観を育み、文化としての剣道を実践していくことを指導の目標とする。
A2「こども武道憲章」
武道は日本古来の武勇を尊ぶという精神を受け継ぎ、長い歴史の中で培われ発展してきた伝統文化
です
武道は礼儀正しさを身につけ、技を磨き、心身を鍛え、立派な人になるための修業の方法です。私
達は技の稽古や試合の勝ち負けだけを目的にするのではなく、武道を正しく理解して、この素晴ら
しい日本の伝統文化を大切にしなくてはなりません。
これからも武道を愛し、修業を続けていくために、私達が心がけていかなければいけないことを
「こども武道憲章」として掲げ、これを守ります。
第一条(目的)
武道は技を磨くことによって心身を鍛え、強くたくましく、勇気と思いやりと正義感をもった
社会に役立つ人になることを目指します。
第二条(稽古)
稽古をするときは先生の教えや礼儀を守り、基本を大切にし、技だけでなく心と体も共に鍛え
るよう、一生懸命に励みます。
第三条(試合)
試合や演武では普段の稽古の力を出しきってがんばり、勝ち負けや結果だけにこだわらず、節
度ある真剣な態度でのぞみます。
第四条(道場)
道場は技を磨き、心と体を鍛える場所として、規則や礼儀を守り、清潔と安全を心がけます。
第五条(仲間)
道場の仲間を大切にして、お互いに協力し、励まし合いながら楽しく稽古し、さらに多くの仲間
を作ります。
B1「剣道と人間形成」
剣道の理念の目的とする人間像とはどのようなものを指しているのか、普遍的かつ具体性を以って理解することは難しい。剣道以外の武道またはスポーツ、文化的活動、学問的研究等でもその活動過程において起こる様々な困難があり、これを乗り越えることで人間として成長し、この経験が 知識や技術を高めて行くのであり人間形成は剣道だけのものではない。 では、剣道において人間形成を求めることの意義や狙いはどこにあるのか。それはすなわち、「剣道には固有の特性があり、この修練を通じて人間形成(=人材育成)に有用な体験をし精神的な成長を促進することができる。剣道の様々な活動の最終目標を人間形成(=人材育成)に置く理由がここにあり、これを目的化することにより、剣道の価値が高められ、持続的な発展を観ることができる。」のである。私が最近読んだ書物に分かり易い説明があり共感しました。紹介しますので参考にしてください。
「剣道で得られる礼儀、道徳心、技の習得、心身の鍛錬、剣道の最終目的としての人間形成と、技と 心をバランス良く鍛えていかなければなりません。剣道は、今すぐ勝つのではなくやがて社会に出たときにどんな困難な事態に当たろうが挫けず前に進み、社会に貢献できる人材育成を目的にすべきなのです。」(サムライの金字塔⁻現代の剣道人に贈る、上巻 大久保和政・田中宏明著 島津書房)
それでは、剣道の持つ固有の特性とはなにか、特に競技性と精神性について全剣連「社会体育教本」を参考に整理してみました。競技(スポーツ)としての特性では、主な3つを上げました。「①竹刀/木刀を使う対人的競技であり、技術・精神性に依存する(対人的特性)、②技術・精神に依存する事から練磨する事で高年齢まで永く稽古を続けられる(生涯剣道)、③刀の思想を競技に織り込み最高の有効打突(1本)を追求する(竹刀の本意)」です。精神的な特性は、他の日本文化(儒教、仏教、武家社会等)から影響を受け確立されてきたものと言えます。この点から欧米のスポーツマンシップという近代的精神というよりは、中世騎士道に類する伝統と奥深さをもった精神性を持つと理解される。その発現としての特性を3つを上げてます。「①礼にはじまり礼に終わるという礼節・礼法がある、②武士道思想の延長として社会の模範となる公正な態度、協調性の育成、信義誠実の心の醸成、③技術を研ぎ澄ます事に秀でた日本人の特性が生んだ「刀」の思想、このような日本の伝統を守る自覚を持つ」です。 また、攻めて打つことによる積極性・自主性や心気力一致した打突により集中力・注意力・判断力等の精神力を高める事にも固有の効果があります。どうしても剣道は、競技として試合や勝負に走りがちになります。剣道を通じ、人間形成目的とした指導を小中学教育から取り入れることが必要と思います。
【参考文献】
・「剣道 社会体育教本 改訂版」財)全日本剣道連盟社会体育委員会著、全日本剣道連盟、平成17年8月1日
・「サムライの金字塔 現代の剣道人に贈る 上巻」大久保和政・田中宏明著、島津書房、平成25年10月15日
B2「日本剣道形を稽古する目的と効果」
日本剣道形は、統一性や理解し易さ追求の点から先人の諸先生による解説書作成等され、「刀」の思想を継承する努力がなされて来ました。「剣道指導の心構え」にある①竹刀の本意、②礼法、③生涯剣道の指針により剣道を正しく普及発展させる主旨からも、竹刀による稽古と形の稽古を等しく体得することが非常に重要であり、日本剣道形の稽古が何を目的とするかを正しく認識しておかなければなりません。
日本剣道形には、永い歴史があり理合や精神面で深い内容を持っている伝統的文化遺産です。これを学ぶ目的(狙い)は、①剣道の礼儀作法、②基礎的な技術修得、③剣の理合(法)の修得、④内面的心の働きや気位の会得(参照:「社会体育指導教本」全剣連)とされ、これを修得しまた指導していくことは、すなわち次世代へ剣道の伝統文化を正しく継承するという大きな意味もあります。剣道形を稽古することにより、次のような効果があり、竹刀稽古にも応用という観点で相乗効果が期待できます。
① 伝統的礼儀作法や落ち着いた精神や態度、呼吸法。
② 正しい姿勢、正しい構えを身に着け、悪い癖を直すこと。また正しい構えから正確な打突、残心に
に至る過程の技術的な基礎を身に着ける。
③ 形の稽古により剣道の技の理合を理解し、会得する。間合い、打突の機会、正しい刀筋、残心等を
形の一連の技の動きと理論を体得する。
④ 気合・気迫・発声が充実すること、さらには気位が高まり風格がついてくる。
また、日本剣道形を学ぶことで剣道に対する統一した理解が得られ、剣道が正しく伝承され健全な発展が促進されること、形の発展史を知ることで、剣道の伝統文化を継承に対する強い自覚が生まれること等の効果もあると思う。
剣道は基本が大事とよく言われるが、技術力の高低を問わず皆がそう思っている。しかしながら、熟練を積むにしたがって求める基本の質が変わってくるのではないだろうか。形の稽古でも若い頃には簡単と思っていた事が、やればやるほど難しくなった経験があります。理合いを理解しその通りやろうとするとさらに難しくなる。そのときに色々な工夫や研究をすることが、形の稽古を一層面白いものにしてくれます。